ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)
胃から分泌される胃酸は、食物の消化だけでなく、口から入った病原体の殺菌・不活化という役割も担っています。そのため、強力な胃酸がある胃の中では細菌が生息できないと考えられていました。1979年に胃の中で生息するピロリ菌が発見されましたが、ピロリ菌は免疫力や胃酸がまだ弱い幼少期に感染し、ウレアーゼという酵素を分泌して周囲を中和することで胃の中での生息を可能にしています。
ピロリ菌に感染していると胃に慢性的な炎症を起こし、進行して萎縮性胃炎になると胃がんの発症リスクが大幅に上がってしまいます。
主に汚染された井戸水などを介して感染すると考えられており、衛生環境が整備された先進国では感染者数が減少していますが、日本は今も比較的感染者数が多くなっています。幼少期の口移しや食器の共有などで感染する可能性が示唆されていることから、ピロリ菌感染陽性や胃がんを発症した家族がいる場合には感染の有無を確かめる検査を受けることをおすすめしています。感染している場合も、除菌治療を成功させることでピロリ菌を除去できますし、ピロリ菌が除去できれば炎症や潰瘍などの再発リスクを大幅に下げるなど多くの消化器疾患の発症リスクが下がります。また、ピロリ菌を除去することで次世代への感染予防にもつながります。
胃がんとピロリ菌の関連性
ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が出す毒素によって胃粘膜の炎症が生じやすくなり、炎症を繰り返すことで組織がダメージを蓄積して胃粘膜が萎縮する萎縮性胃炎を発症することがあります。この萎縮性胃炎は胃がん発症リスクがとても高い状態であり、進行すると胃粘膜が腸の細胞に変化する腸上皮化生を起こしてしまいます。腸上皮化生を起こすとピロリ菌も生息できない環境になるため、この段階でピロリ菌感染検査をしても陰性になります。
ピロリ菌に感染している場合でも、除菌治療に成功することで炎症の再発を抑制できますので、炎症の進行を抑えることができます。ピロリ菌と胃がんの関係は世界中の研究者が調べており、深い関連性があることがわかってきています。WHO(世界保健機構)の研究者が発表した報告でも胃がんの原因にピロリ菌が関わっていて、除菌治療によって胃がん発症率を減らせることが指摘されています。
慢性化した炎症を進行させないためにも、ピロリ菌に感染している可能性がある場合には胃内視鏡検査を受けて粘膜の状態を詳細に調べた上で組織を採取して感染の有無を調べ、陽性の場合には除菌治療を受けるようにしましょう。
ピロリ菌感染検査
胃内視鏡検査の際に組織を採取して行うものと、胃内視鏡検査をせずに行うものがあります。確定診断ができるのは、胃内視鏡検査によって行う検査です。
胃内視鏡検査による検査
胃内視鏡検査中に組織を採取して回収し、それを調べて感染の有無を判断します。
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が分泌するウレアーゼという酵素は尿素を分解します。この働きを利用し、反応液を用いて検査します。
鏡検法
組織を顕微鏡で調べて感染の有無を確かめます。
培養法
組織を培養してから感染の有無を調べます。
胃内視鏡検査をしないで行う検査
抗体検査
血液や尿の抗体の有無を調べます。
尿素呼気試験
反応薬を服用する前後の呼気(吐く息)を採取して感染の有無を調べます。
抗原検査
便の中に抗原が含まれているかを調べる検査です。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌感染検査で陽性になった場合には、除菌治療が可能になります。
除菌治療の内容は、抗菌剤2種類(アモキシシリンとクラリスロマイシン)とその効果を高める胃酸分泌抑制剤1種類を1週間服用するというものです。
除菌治療は失敗することがあり、1回目の1次除菌の成功率は80%程度です。1次除菌に失敗した場合には2回目の除菌治療である2次除菌が可能です。2次除菌では抗菌剤1種類を変更して1次除菌と同様に1週間服用します。1次除菌と2次除菌を合わせた成功率は約90%程度とされています。
なお、抗菌剤にアレルギーがある場合、初回から2次除菌の抗菌剤を使った除菌治療を行うこともあります。
健康保険の適用について
ピロリ菌感染検査と除菌治療は一定の条件を満たした場合、健康保険適用で受けることができます。当院では条件について事前にわかりやすくご説明して、ご質問にも丁寧にお答えしています。ご不明の点がありましたら、些細なことでもお気軽にご相談ください。
保険適用の条件
消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少症、早期胃がんで内視鏡による治療を受けた、ピロリ菌感染による慢性胃炎があるといった条件を満たした場合、保険適用されます。ただし、慢性胃炎は胃内視鏡検査によって診断された場合にのみ適用され、胃内視鏡検査を受けていない場合は適用されません。
保険適用外となるケース
造影剤を用いたX線検査で慢性胃炎の診断を受けた場合、また血液や尿、便・呼気などの検査でピロリ菌感染を指摘された場合、内視鏡検査を受けていなければ除菌治療は保険適用されません。